本コラムは、弊社取締役の上野が執筆をしております。
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1. はじめに
本コラムでは、これまでの電力市場価格分析のフォローアップとして、2026年5月29日に公表されたJEPXスポット市場のブロック入札分割に関する周知が、その後の東京エリアの市場価格に影響を与えたかを検証します。
具体的には、因果推論の手法の一つであるDifference-in-Differences(DID:差分の差分)を用いて、周知後約1か月の6月末までの東京エリアの市場価格への影響を分析します。
2. まずは価格の推移を確認する
図1は、2025年度および2026年度の東京エリアのスポット価格を、ブロック入札分割の周知日である5月29日を基準として、その前後で比較したものです。
2026年度に着目すると、5月29日の周知後も価格変動は続いており、図からは周知を境とした明確な価格低下傾向は確認できません。
(図1 東京エリアスポット価格の推移)

3. 単純な前後比較だけでは分からない理由
図1のような単純な前後比較では、ブロック入札分割の周知による影響と、燃料価格や電力需要、季節要因など市場価格に影響する他の要因を取り除くことができません。
そこで、東京エリアと価格推移が類似したエリアをベンチマークとして選定し、両エリアの価格変化を比較することで、ブロック入札分割周知の影響を分析します。
Difference-in-Differences(DID:差分の差分)では、分析対象と比較対象が、5月29日のブロック入札分割の周知前に類似した価格推移を示すという「平行トレンド仮定」が重要です。
この仮定を確認するため、2026年4月1日から5月28日までの東京エリアと各エリアの価格差の時間トレンドを分析したところ、中部エリアのみ東京エリアとの価格差に有意な時間的変化は認められませんでした(β=-0.005、p=0.740)。
よって、本分析では中部エリアを東京エリアのベンチマークとして採用しました。
(図2 ベンチマークエリアの選定結果)

4. 因果推論(DID)による検証
東京エリアの平均スポット価格は、5月29日のブロック入札分割周知前後で1.31円/kWh上昇した一方、中部エリアでは同期間に0.72円/kWh上昇しました。
もし東京・中部両エリアで共通の市場要因だけが働いていたなら、両エリアの価格変化は概ね同程度になると考えられます。
Difference-in-Differences(DID:差分の差分)では、Difference-in-Differences(DID:差分の差分)では、この共通の価格変化を差し引くことで、ブロック入札分割周知の影響を反映している可能性のある追加的な価格変化を推定します。
その結果、推定値は+0.59円/kWhとなりました。
これは、市場全体に共通する価格変動を差し引いても、東京エリアでは中部エリアより約0.6円/kWh大きな価格上昇が観測されたことを示しています。
(図3 東京・中部エリアの5月29日のブロック入札分割周知前後の市場価格比較)

5. 推定結果を検証する
ブロック入札分割周知後、東京エリアでは中部エリアと比較して約0.59円/kWh大きな価格上昇が観測されました。
この結果は当初の想定とは逆方向の推定結果でした。
しかし、この結果だけでブロック入札分割周知の影響であると結論付けることはできません。
偶然の価格変動によっても、この程度の差が生じる可能性があるためです。
そこで、東京エリアと中部エリアの価格変化の差が、偶然の変動として説明できる範囲を超えているかどうかを回帰分析により検証しました。
その結果、少なくとも周知後約1か月の平均スポット価格については、今回観測された価格差をブロック入札分割周知による影響として解釈できるだけの統計的根拠は得られませんでした。
図4に、本分析で採用した分析手順の全体像を示します。
(図4 ブロック入札分割周知の平均価格影響分析プロセス)

6. まとめ
本分析では、Difference-in-Differences(DID)を用いて、ブロック入札分割周知後の東京エリアのスポット価格への影響を検証しました。
その結果、周知後約1か月の日平均スポット価格については、ブロック入札分割周知が平均価格に影響を与えたことを示す統計的根拠は得られませんでした。
比較対象には、周知前の価格推移が東京エリアと最も類似していた中部エリアを用いましたが、中部エリアも一定の影響を受けた可能性があるため、本分析結果はその点を踏まえて解釈する必要があります。
なお、ブロック入札分割周知が市場価格に与えた影響については、引き続き注視していく予定です。
(図5 分析結果まとめ)

(出典:JEPX)

代表取締役社長 高橋 優人
新卒で九州電力に入社し、約7年間在籍。在籍時は、電力の法人営業、ガスの個人営業等に従事。その後、エネルギーベンチャー企業を経て、日本電力調達ソリューションに参画。2024年9月に代表取締役社長に就任。

















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