【解説】GHGプロトコル改定案で「アワリーマッチング」必須へ ――再エネ100%の証明が、より厳格に。

日本電力調達ソリューション代表の高橋優人です。
こちらでは、私がお客様とやりとりさせていただく中で気づいたこと、ニュース記事を見て学んだこと等をリアルタイムで発信しています。
読んでくださる方にとって、有益な情報になっていれば幸いです。

企業の脱炭素経営を支える国際的な排出量算定基準「GHGプロトコル」が、大幅な改定に踏み出しています。今回の改定案では、スコープ2(購入電力の排出量)における「再エネ証書」の扱い方が大きく変わる見通しで、日本企業にも実務的な影響が広がりそうです。

改定の背景:自主開示から「法定開示」時代へ

GHGプロトコルは、米国のシンクタンク「世界資源研究所(WRI)」が策定した、世界標準の排出量算定ガイドラインです。これまでは企業の自主的な開示に使われてきましたが、各国で排出量の「法定開示制度」が進む中、より厳密な基準への改定が求められるようになりました。

これにより、「どの時間に、どのエリアで、どの発電所の電力を使ったのか」をリアルタイムで一致させることが求められます。いわば、“仮想的な再エネ利用”から、“物理的に裏付けられた再エネ利用”への転換です。

実務的インパクト:証書を買うだけでは「再エネ100%」を名乗れない

これまで多くの企業は、FIT非化石証書を購入することで再エネ100%をうたってきました。しかし、改定案が導入されれば、単に証書を買うだけでは不十分となり、発電時間帯と需要の一致(同時同量)が求められます。小売電気事業者の再エネメニューも、多くの場合は、FIT非化石証書を付帯しています。したがって、アワリーマッチングには対応していません。再エネメニューの選択にも、今後は影響が出てきそうです。

例えば、
・東京電力エリアで昼間のFIT電源比率が15%なら、証書で主張できるのも15%まで。
・九州で発電した再エネの証書を沖縄など他エリアで使うことも原則不可。
このため、PPA(電力購入契約)や蓄電池との組み合わせが、再エネ100%の現実的な選択肢になっていくでしょう。

改定の狙い:デマンドレスポンスと系統安定化

今回の改定案には、再エネと需要をリアルタイムで一致させることで、電力系統の安定化を図る狙いがあります。太陽光が発電する昼間に企業の電力消費をシフトする「デマンドレスポンス」を促すことで、出力抑制(発電停止)を減らし、再エネの有効活用を進める設計です。

導入スケジュール(予定)

~2025年12月:意見募集(コンサルテーション)
2026年4~6月:主要部分を改定
2027年:スコープ2改定版公表
2030年前後:適用開始見込み

適用までに数年ありますが、企業の開示体制や電力調達戦略の再設計は今から始める必要があります。

日本企業への示唆:PPA・トラッキング・蓄電の整備が急務

欧米ではすでにアワリーマッチング対応の再エネ取引が主流になりつつあります。
日本でも、
・エリア内PPAの拡充
・需要シフト・蓄電導入
が求められるでしょう。

再エネ100%のハードルは上がりますが、その分、実質的な脱炭素経営の信頼性(Integrity)が高まるという側面もあります。

まとめ

GHGプロトコル改定は、企業の「再エネ利用」の定義を根本から変える可能性があります。「証書を買えば再エネ100%」という時代は終わり、今後は「何時・どこで・どの電力を使ったか”を証明する時代」へ

電力調達の現場では、こうした国際ルールの潮流を見据え、早めにPPAやアワリーマッチング対応の仕組みを整えることが鍵となります。

参考:GHGプロトコル、FIT非化石証書の活用に上限 スコープ2改定案 – 日経GX(2025年11月4日)
https://www.nikkei.com/prime/gx/article/DGXZQOUC288310Y5A021C2000000?msockid=2381a482b90b6fc61812b13bb8e16e8d

コメント

この記事へのコメントはありません。

関連記事